Orman MA, Brynildsen MP.
Nat Commun. 2015 Aug 6;6:7983.
doi: 10.1038/ncomms8983. Erratum in: Nat Commun. 2016;7:10756. PMID: 26246187; PMCID: PMC4530465.
同一の遺伝子セットを持つ細菌集団のごく一部に、一時的に抗生物質に耐性を持つパーシスターと呼ばれる細胞が生じる。この細胞は、自身の耐性によって抗生物質から保護されており、加えてバイオフィルムの細胞外マトリックスによる物理的バリアーによって宿主の免疫細胞からも保護されている。そのため、パーシスターがバイオフィルム感染症の再発を引き起こす主な原因であると考えられている。パーシスターを標的にした療法は、米国の病院で治療される感染症の大半を占めるバイオフィルム感染症の治療効果を高めることが期待されている。しかし、パーシスターの表現型に関する知識が限られているため、パーシスターを排除する戦略はまだ少ない。パーシスターは一過性のものであり、豊富に存在する「生存しているが培養できない細胞(viable but non-culturable cells)」と表現型が類似しているため、細胞集団から高純度のパーシスターを採取することは難しく、そのためまだ特徴をよく明らかにできていない。パーシスターは、ゆっくり増殖または増殖を停止した集団に多く存在することが知られている。Maisonneuveらの最近の研究では、確率的なppGppの蓄積によって増殖が停止したすべての細菌がパーシスターになるわけではないことが示されている。
本研究では、増殖が停止した細胞の代謝活動が、パーシスターの形成に影響するかどうかを調べた。具体的には、定常期細胞を新鮮な培地で抗生物質に曝すことで形成されるEscherichia coliのI型パーシスターについて調べた。以前、我々は、代謝活性の蛍光測定(Redox Sensor Green dye)、fluorescence-activated cell sorting(FACS)、および persistence assay を用いて、対数増殖期培養液におけるパーシスターの代謝を初めて直接測定した。ここでは、非増殖モデルとして定常期培養液を調べ、タイプIのパーシスターの存在量を測定した。その結果、酸化還元活性が最も低い亜集団には、パーシスターがほとんど存在しないことがわかった。この表現型を遺伝学的、生化学的、およびフローサイトメトリーの手法を用いて解析した結果、この栄養不足の条件で呼吸を阻害することが、パーシスターの形成を防ぐ有効な手段であることがわかった。さらに、細胞の大きさ、タンパク質の分解、RNAの完全性を測定することで、定常期におけるパーシスターの形成には自己消化が関係していることを明らかにした。これらの結果から、細菌の呼吸は、パーシスター形成を抑制するための潜在的なターゲットとなることが明らかになった。
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