Phelps D, Brinkman NE, Keely SP, Anneken EM, Catron TR, Betancourt D, Wood CE, Espenschied ST, Rawls JF, Tal T.
Sci Rep. 2017 Sep 11;7(1):11244.
doi: 10.1038/s41598-017-10517-5. PMID: 28894128; PMCID: PMC5593827.
腸内細菌叢が神経系の発達に重要な役割を果たすことを示す証拠が増えてきている。この関係は、腸内細菌叢と中枢神経系との双方向のコミュニケーションを伴う、微生物叢-腸-脳軸を介して生じている。腸内細菌叢の異常な変化は、不安や抑うつ、自閉症スペクトラム障害、パーキンソン病を含む様々な神経精神疾患と関連している。また、神経新生や、血液脳関門の形成と維持、ミクログリアの成熟など、基本的な神経発達過程における腸内細菌叢の役割についても関心が高まってきている。このような進展にもかかわらず、神経行動発達における微生物の定着の時間的条件は理解されておらず、微生物が正常な中枢神経系の発達を媒介するメカニズムは明確に同定されていない。
ゼブラフィッシュは、神経行動発達の遺伝学研究するための貴重な脊椎動物モデルである。また、小型であり、母体外で受精と発生ができ、急速に成長し、透明であり、化学遺伝学的スクリーニングへ適応でき、広範なゲノム資源があるために、生物医学的および毒物学的研究モデルとして使用されている。哺乳類と比較して、無菌のゼブラフィッシュを作成や、無菌ゼブラフィッシュへの微生物の定着を容易に行うことができ、またプロバイオティクスの投与も比較的簡単である。ゼブラフィッシュ腸内の多様な微生物コミュニティは、人間と同様に発生段階によって変化し、また個体間で有意に変動する。ヒトの健康や環境毒性に関連する宿主と微生物の関係のメカニズムを明らかにするための効率的な実験モデル系として、ゼブラフィッシュを使用することを、これらの知見は支持する。
Locomotor activityは、ゼブラフィッシュモデルにおける神経行動機能の指標として、医薬品開発、化学毒性、マイクロバイオームの研究で広く利用されている。これらの研究は微生物の定着の状態と行動の間の関連があることを示しているが、微生物が行動に即座に関係するかどうか、また微生物が正常な神経行動の発達を促進する効果を示すかどうかは不明である。腸内細菌叢は、シナプス形成、神経伝達物質、神経栄養因子を調節することによって脳生理に影響を与えることがあり、いくつかの報告では、マウス、ラット、およびゼブラフィッシュにおける腸内細菌叢と行動の間の関係を強調している。しかし、腸内微生物が運動機能を調節する経路はまだ定義されていない。
本研究では、ゼブラフィッシュの発生初期における微生物叢の乱れが神経行動に与える影響を明らかにし、正常な運動活動パターンを促進するための微生物の定着の時間的依存性を初めて報告した。無菌幼魚や抗生物質にさらされている幼魚は、運動量の増加が見られることを示した。無菌幼魚にAeromonas veroniiまたはVibrio choleraeを定着させた場合には正常な運動機能が表れるが、死菌や選択された微生物関連分子パターン(microbe-associated molecular pattern: MAMP)を介した宿主トール様受容体(toll-like receptor: TLR)の活性化では表れなかった。これらの知見は、正常な神経行動の発達には、幼魚期の微生物の定着が必要であることを示している。
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