Osakunor DNM, Munk P, Mduluza T, Petersen TN, Brinch C, Ivens A, Chimponda T, Amanfo SA, Murray J, Woolhouse MEJ, Aarestrup FM, Mutapi F.
Commun Biol. 2020 Apr 2;3(1):155.
doi: 10.1038/s42003-020-0859-7. PMID: 32242065; PMCID: PMC7118151.
ヒト腸内には、ウイルス、真菌、その他真核生物に加えて、主に細菌を中心とした多様な微生物生態系が構成されている。食物からの必須栄養素の抽出、病原体からの最初の防護ライン、また免疫システム形成メカニズムとして、ヒトは微生物との共生関係に依存している。メタゲノム配列決定により、異なるヒト集団間のマイクロバイオームは、かなり異質性があることがわかっている。このような研究は主に欧米の集団に焦点を当てており、アフリカの集団についてはあまり事例がない。他の研究では、多様ではあるが年齢の高い集団が含まれており、アフリカの幼少期に内在する要因を完全に切り離すことはできない。乳幼児期のマイクロバイオームが健康に大きな影響を与えることを考えると、この年齢層に焦点を当てた研究は重要である。Human Heredity and Health in Africa (H3 Africa) と HapMap Project を含むコンソーシアムからの知見は、アフリカでの栄養について情報を得るのに非常に貴重である。
腸内マイクロバイオームの組成は、年齢、食事、地理、宿主遺伝子型、母体のマイクロバイオームの暴露だけでなく、原虫や蠕虫類の寄生虫など環境要因によって影響を受ける。アフリカの子どもたちは成長と発達に影響のあるいくつかの急性および慢性の寄生虫感染症にさらされている。特に蠕虫類の寄生虫は、生後6ヶ月以下の子供が感染する可能性があり、その後20年間にかけて免疫系を変調させる。腸内微生物は3~5歳頃まで変化する。そのため幼い子供が曝される外的要因、特に感染症がマイクロバイオームにどのような影響を与えるのか、明らかにすることは重要である。
住血吸虫症は、Schistosoma属の吸虫(尿路性器型 S. haematobium と腸型 S. mansoni )に感染することによって引き起こされる疾患である。この病気の病理学的特徴は、膀胱または腸管腔を移動する卵に対する免疫反応が主である。感染は寄生虫と宿主の両方の生存を促進する免疫調節作用を引き起こし、未就学児では栄養不良、発育不良、認知能力の低下、ワクチン効果の低下、共感染の予後の変化にまで及ぶことがある。住血吸虫症の治療として、すべての住血吸虫種に有効な抗蠕虫剤praziquantelの投与が行われている。
我々自身の研究を含め、多くの研究では蠕虫感染と腸内マイクロバイオームの構成との関連性を検討している。これらの研究は、住血吸虫感染の免疫調節効果は、腸内マイクロバイオームにも影響することを示唆している。実験モデルでの研究は、腸内細菌の枯渇がS. mansoni卵の排泄の減少、腸病理や炎症と関連していることを示している。最近のマウスにおける研究では、S. mansoniに感染したマウスの腸障害の前後で腸内細菌叢の組成が変動することが示した。しかし、腸内細菌叢と同じ環境に生息するS. mansoni(腸型)とは異なり、S. haematobiumは主に膀胱の静脈に生息しており、感染が腸内細菌叢に及ぼす間接的な全身的影響を研究する必要がある。腸内マイクロバイオームと関節リウマチなどの全身疾患との相関関係は、このような全身的相互作用の重要性を示唆している。ヒトにおける蠕虫とマイクロバイオームの間の全身的相互作用に関する表現型および機構論的研究はまだ黎明期にあり、より多くの研究が必要とされている。以前の研究で我々は、13歳までの子供においてS. haematobium感染の有無における腸内マイクロバイオームの違いを発見した。ナイジェリアの高齢児(11~15歳)を対象とした研究では、尿路性住血吸虫症は腸内マイクロバイオームの乱れと関連していることが示されており、これが住血吸虫感染のさらなる結果である可能性が示唆されている。しかし、未就学児における腸内マイクロバイオームと住血吸虫感染症との相互作用については、まだかなりの知見のギャップが存在している。最大の課題は、因果関係を明らかにすることと、既存の相互作用のメカニズムを解明することである。
住血吸虫とマイクロバイオームの相互作用に加えて、宿主の健康に関連する他の相互作用も腸内生態系内で起こることが報告されている。例えば、Salmonellaは腸内住血吸虫に付着することで繰り返しの抗生物質治療を回避して体内に残留し、最終的には抗生物質耐性を持つ可能性があることが報告されている。また、マイクロバイオームは抗生物質耐性遺伝子(レジストーム)のリザーバーとして機能し、常在細菌と一過性の細菌の間で抗生物質耐性遺伝子の交換のための理想的な環境を提供する。このような相互作用は、常在の細菌叢の構造や多様性、さらには全体的な抗生物質耐性遺伝子の組成に影響を与える可能性がある。したがって我々は、細菌の抗生物質耐性遺伝子について、これが摂食、成長、栄養だけでなく、社会人口、抗生物質の使用、住血吸虫感染を含む宿主関連因子と関連しているかどうかを調査した。抗生物質耐性は依然として人の健康に対する最大の脅威の一つであり、抗生物質耐性への管理の必要性が世界中で何度も叫ばれている。しかし、ほとんどすべての抗生物質耐性遺伝子研究は、安全な水や衛生設備がり、抗生物質を利用できる産業が発展した地域で実施されており、アフリカの就学前年齢の子供たちの集団では十分に研究されていない。
ジンバブエで行われている大規模な住血吸虫症研究の枠組みの中で、本研究では1~5歳の就学前の小児113人の便サンプルのショットガンメタゲノム配列決定を行った。この若年層における腸内マイクロバイオームと抗生物質耐性研究に関する情報のリポジトリを追加するために、腸内マイクロバイオームの構造と多様性(真菌のレパートリーを含む)とレジストームの特徴を明らかにした。これらのデータを用いて、S. haematobium感染が腸内微生物および抗生物質耐性遺伝子の豊富さと多様性の変化と関連しているという仮説を検証した。まず、細菌Bacteroidetes、Firmicutes、Proteobacteria、真菌Ascomycota、Microsporidia、Zoopagomycotaが、マイクロバイオーム中で優占していることを示した。年齢、性別、村落とは無関係に、Proteobacteria、Ascomycota、Basidiomycotaの豊富さは、住血吸虫に感染した子供と感染していない子供で異なっていた。具体的には、感染はPseudomonas、Stenotrophomonas、Derxia、Thalassospira、Aspergillus、Tricholoma、Periglandulaの増加、Azospirillumの減少と関係していた。12の機能性薬物クラスから262の抗生物質耐性遺伝子を発見したが、個体特異的なデータとの関連は見られなかった。
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