Albarracín Orio AG, Petras D, Tobares RA, Aksenov AA, Wang M, Juncosa F, Sayago P, Moyano AJ, Dorrestein PC, Smania AM.
Commun Biol. 2020 Nov 12;3(1):670.
doi: 10.1038/s42003-020-01342-0. PMID: 33184402; PMCID: PMC7661731.
土壌微生物の多様性やその相互作用は、土壌の肥沃度に影響を与える主な要因の一つであるため、生態系の健全性のみならず、増大する世界人口のニーズを満たす農業生産においても重要な役割を果たしている。したがって土壌管理の文脈で、微生物の相互作用をよりよく理解することは、土壌生物が提供する利益を十分に活用するために不可欠である。
拡散性の小さな二次代謝物の交換を介した拮抗的・相互的な作用は、微生物の複雑な生態系への適応を促進する。その中でも真菌と細菌は、運動性、分泌系、二次代謝物、クオラムセンシング(quorum sensing: QS)などによって形成された複雑な相互作用を介して、土壌環境の多種多様な場所で共生している。
Bacillus subtilisは、植物の根圏だけでなく、土壌の上層部にも生息するグラム陽性細菌である。植物由来の分子を利用するための遺伝的経路を豊富にもっているため、本種が植物と密接に関連して生育していることが裏付けられている。さらに、幅広い土壌微生物が産生する低分子化合物を感知するB. subtilisの能力は、近隣種に対する幅広い応答機構の存在を示している。この意味でB. subtilisは、細菌、真菌、線虫、昆虫など、幅広い生物に対する生物学的防除戦略を開発するための興味深いモデルとなった。この能力は、B. subtilisが分泌する多数の代謝物に由来しており、その多くは抗菌化合物とシグナル伝達分子としての役割を果たしており、発生の制御、バイオフィルム形成、競合生物が放出する病原性因子の阻害などのプロセスに関与している。全ゲノムシークエンシングにより、B. subtilisはそのゲノムのほぼ4%を二次代謝物の生産に費やしていることが明らかになった。ほとんどの細菌種のように、B. subtilisでも、DNA取り込み、胞子形成、バイオフィルム形成などは、QSシステムによって制御されている。興味深いことに、細菌のQSシステムは種内のコミュニケーションに限らず、その他の種とシグナルを送受信することが可能である。
我々は以前、タマネギの根圏からB. subtilis(Bs ALBA01)を分離し、この株が経済的に重要な野菜の主要な植物病原体である真菌Setophoma terrestrisのin vitroでの生育を強力に阻害することを示した。Fusariumなど他の病原体との共培養では生育阻害が見られなかったため、この反応は S. terrestris 特異的であると考えられている。重要なことに、抗真菌活性はS. terrestrisの存在下で培養したBs ALBA01 (post-ST variant)の培養上清でみられ、S. terrestrisの非存在下で培養した場合はみられない。post-ST variantによって分泌される拮抗化合物は、S. terrestrisの成長と生殖の停止につながる菌糸の形態と構造に変化を引き起こしていた。しかし、この現象のメカニズムや抗真菌化合物の性質については、未だ解明されていない。
本研究では、表現型の解析、LC-MS/MSやGC-MSを用いたメタボロミクス、比較ゲ ノミクスを組み合わせたアプローチにより、B. subtilis が S. terrestris との相互作用によって生じる突然変異に基づく表現型の変化を起こすことを明らかにした。この変化には、主な抗真菌化合物である(2-heptanone と 2-octanone)の産生とバイオフィルム形成の増加が関与していた。逆説的だが、この抗真菌活性は、主な抗菌化合物として認識されている環状リポペチドsurfactinとplipastatin生合成の欠失を必要とした。全ゲノム解析により、ComQXPA QSシステムの変異が、B. subtilisの代謝をsurfactinの枯渇と抗真菌化合物の産生に向けて再編成したことが明らかになった。
この結果は、B. subtilisの生物学的相互作用戦略の理解を深めるものであり、化学的コミュニケーションやバイオコントロールのための代謝物発現の制御システムの解明に役立つものと考えられる。
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